編纂員: えいはぶ
世の中には違法、あるいは危険な脱法ドラッグが多く存在シテイル…。しかし!その一方でドラッグなんか使わずとも頭がハイになっちゃうような気持ち良いものもきっと世の中に溢れている!そんなまだ見ぬ合法的にトリップできるものを探究する本企画、題して……
『えいはぶのマグナム合法トリップ!!』
今回ご紹介するのは「安寧破壊」である。何やら物騒なワードだが決して犯罪行為ではないので安心してくれたまえ。だが、今回はこれまで紹介したどのトリップより、最もフィジカルで最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなものであり、まさしく『犯罪』的なエクスタシーが得られる。 では、手順を見ていこう。
【手順】
①人が大勢いて、かつ密閉空間となっている場所に行く。
②そこで二郎系ラーメンを食(ガツ)す。※店舗に行くのではなく、レンジで温めるタイプの二郎系ラーメンを使用する。
③間髪入れずにMonster Energy ZERO SUGARを飲(イン)す。
④強烈な臭気をその場に残したまま、立ち去る。
本トリップは私が大学生時代に編み出したものである。
そう、確かあれは昼休憩の時間だった…。
大学生の昼休憩は多種多様だ。食堂に向かう者、友人と大学近辺の飲食店で食べる者、大量の課題に追われ、午後の講義が始まる直前までノートパソコンと睨めっこしている者など、まさに様々である。 例に漏れず私もそのような過ごし方をしていた…と言いたいところだが、実際はキャンパス内にあるコンビニエンスストアでカップ麺とMonster Energy ZERO SUGARを買い、誰も使用していない講義室で一人、YouTubeを見ながら食べていた。
全く寂しくない…と言えば嘘になるかもしれないが、生来、人見知りな性格なこともあり他者を気にせず自分のペースで過ごせるのはそれはそれで心地が良い。それに、私立大学というただでさえ人が多く、どこもかしこもやかましい環境なのだから願ったり叶ったりではある。
そういったわけで、当時の私にとって昼休憩の時間は心安らげる「安寧」のひと時であった。
二限が終わると、私はいつもと同じように学内のコンビニエンスストアへ。上述したようにいつもはカップ麺を食べているが、毎日は流石に飽きる。今日はいなり寿司(3個入り)とインスタント味噌汁にしようか…。私は味噌汁の容器に給湯ポットでお湯を注ぎ、そのままいつも独り占めしている空き講義室の方へと向かった。
しかし、ここで小さなアクシデントが起こる。講義室の入口に、「昼休憩中は職員の会議に使われるため閉鎖される」との張り紙が出されていたのだ。
なんてことだ…。この曜日はここを使うと決まっていたのに。運が悪い。 だが、まぁ良い。よく見たら向かいの講義室が空いているじゃあないか。 ルーティンを乱されたことは不服だが、私は実に寛大だ。今日はここで我慢するとしよう。
私は講義室のど真ん中の席に陣取り、イヤホンを装着。そしてYouTubeを見ながらいなり寿司を頬張る。 やはりこの時間は何にも変え難い。まさに「安寧」だ。 そんな至福の時間を謳歌していると…
(ガチャッ)
閉め切っていた筈のドアが開かれ、女子数名が入室してきた。 チラリとそちらの方を見ると、明らかに(あ、先客居たのかよ…)というような顔をしている。彼女達も私と同じように安寧を求め空き部屋を探していたのかもしれない。私としても一人の時間を邪魔されたのは癪だが、後から人が入ってくるのはよくあることだ。まぁ、何よりいつもと違う空き部屋を使っているのだからこうしたイレギュラーも甘んじて受け入れるとし…
(ガチャッ)
…ん?また、入ってきたぞ。今度は男女混合の集団。そしてそれに続くようにまた数名、また数名と入室してくる。
一体どういうことなのだ…。
まさかッッ!?
…何も、全く想定していなかったわけではない。意識の片隅にこそあったが、それが起こり得ることはないだろうと高を括っていたのだ。
おそらくこの部屋は3限の講義に使用されるのだろう。なのできっと、そのまま自分の席を確保するついでにここで昼食を取ろうという魂胆なのだ。
続々と人が入ってきてくれたおかげでイヤホン越しでも分かるほど、部屋がザワついてきた。あぁ…私の安寧が音を立ててゆっくりと崩れていく。
他の空き部屋に移動すれば良いだけの話かもしれないが、わざわざ移動するのも億劫だし、何よりどこか彼らに負けたような気持ちになるから、それはどうしてもできない。
まぁ今日は運が悪かった、そう思うことにしよう。とりあえずイヤホンの出力音量を上げてこの場をやり過ご…
ギャハハハハ!!!!!
スマートフォンの音量調節ボタンに指をかけようとした時、私の席から数列前方に居座っていた男女集団の無駄に大きな笑い声が響いた。
そして同時に私の頭の中で何か大事なものがプツンと切れる。
私が黙っていればペチャクチャペチャクチャ楽しそうに…。私への当てつけか?
舐めやがって…。
目にもの見せてやるッッッッ!!!!!
私はようやくここで確信する。彼らを始末せねばならないと…。
私は貴重品だけを持ち、部屋を退室。すぐさま先程のコンビニエンスストアに向かい、レンチンの二郎系ラーメンとMonster Energy ZERO SUGARを購入する。
勿論、二郎は電子レンジで温めたが、蓋で閉じられているのにこの臭い…!!凄まじい…。
講義室に戻るまでの道中、他の学生にこちらを何度も見られたが、そんなことはどうでも良い。ただ一つの信念を抱き、私は一直線で講義室に向かった。
講義室に戻ると、この間に学生がまた数名増えており、先ほどよりも明らかにザワザワとしている。今になってやっと講義室にいる面々の顔を確認したのだが、一人も顔見知りがいない気付く。つまり、彼らは別学部の可能性が高い。
あぁ、これは都合が良い。これでなんの後腐れもなく彼らに禁断の奥義、「安寧破壊」をお見舞いすることができる。まぁ同学部の連中でも容赦なく始末したがね。
私は自分の席に戻り一つ深呼吸をする。
そしてゆっくりと二郎の蓋を開ける。
これまで堰き止められていた湯気が強烈な臭いを放ちながら、ゆらゆらと立ち昇っていく。
途端、それまで和気藹々としていた室内の空気が、それは質量的な意味でも一気に重たくなる。
この時点でもう絶頂しかけているが、こんなものまだまだ序の口だ。
割り箸で一掻き、また一掻きと掻き混ぜる。その度にもわん、と溢れ出る湯気とニンニク臭。
…もう辛抱たまらん!
啜(アブソリュート・バキューミー)。
噛(ワシワシバイティング)。
飲(イン)。
喉。
あまりの強烈な快感に思わず天井を仰ぐ。
最近のコンビニ二郎のクオリティが高いということもあるが、何より周囲の人間が(うわ…ニンニクくさ…)とこちらをチラチラと窺ったり、先ほどより明らかに会話のトーンを落としている様が私の背徳感をそそり、そして滾らせる。
私は今、この空間を掌握している!
だが、これだけでは当然終わらない。
Monster Energy ZERO SUGARのプルタブに指の腹を引っ掛け、そのまま指先に力を込めるとカシュっと爽快な音が鳴った。いつ聞いてもこの音は気持ちが良い。
そして間髪入れずに飲(イン)、後、サイケデリック。
これは二郎系ラーメンを食べた後にMonster Energy ZERO SUGARを流し込むという人類最古のトリップ、
【モンスティック・モーニュレイド】だ。
脂と豚骨醤油で重たくなった口内を、キレと喉越しのあるMonster Energy ZERO SUGARで洗い流すことで、手指の感覚を失うほどのブッ飛びが体感できる。
まさかのトリップ内でさらに別のトリップを行うという合わせ技。
だが、肝心なのはモンスティック・モーニュレイドを行うこと自体が【第二の爆弾・シアーハートアタック】の本筋ではないということ。
大事なのはこの臭いだ。
Monster Energy ZERO SUGARに限らず、エナジードリンクというのは成分に含まれる高麗人参エキスやアルギニン、甘味料などによって独特の臭いを放っているものが多い。そんなものをニンニク臭が立ち込めるこの室内に放てばどうなるか?
諸君らの想像にも難くないだろう。
激臭である。
そしてその激臭に顔にこそ出さないものの、心の中で悶える学生達。想像しただけで脳幹がビリビリと痺れてしまう。
意識が定まらないままモンスティック・モーニュレイドを続けていると、私の席から左前方に座っている女子集団のうちの一人が眉を歪ませながらこちらに振り返り、一瞬目が合った。
そして嫌悪感丸出しの彼女を、私はまるで幼子を諭すような優しい目で見つめ、意識に語りかけた。
日本のような医療技術が発展していて、犯罪率も他国に比べたら比較的低い国で生きる人々は、当然のように平和な明日が来ることを暗に了解している。人として生きている以上、いつだって死と隣り合わせなのにだ。
仮にそれが死に至るほどではなくても、外的な要因で「安寧」がいとも簡単に破壊されることだってザラにある。
人々はその感覚を忘れてしまっている。忙殺されていると言ってもいい。
死への恐怖は、生命を慈しむことと同義である。
安寧を破壊されることの恐怖は、他者の尊厳と生活を敬うことと同義である。
それらを我々は忘れてはいけないのだ。
そういった意味では君達には感謝しないといけないね。私にその感覚を改めて思い出させてくれた。ありがとう。
だから、次は君たちの番だ。
先に私の安寧を破壊したのは紛れも無い、君達だ。
つまり君達は私の尊厳と生活を侮辱した。
人の安寧を破壊して良いのは、破壊される覚悟のある奴だけなのだ…。
それは現実の時間にしてたったの数秒ではあったが、その間決して目を離さなかった。
こちらと目が合ってしまったことに彼女はドキッとしてすぐさま顔を戻したが、もう遅い。
モンスティック・モーニュレイド。
喉。
着胃。
口臭放出。
絶頂である。掌握である。絶対的支配である。
立て続けに響く極太麺を啜る爆音と、部屋に蔓延する爆臭に、咽ぶ学生達。
ただ少し騒いだだけなのに…と思っているのかもしれない。しかし、重大な事態が起こるきっかけとなるのは、得てしてほんの些細なことなのである。
バタフライエフェクト、私の心は蝶だ。
絶頂のあまり自我を見失いかけていたが、ついに完食した。嵐が止んだことを察知した周りの学生たちの声のトーンが少しだけ明るくなる。
やっと解放される、きっとこの場にいた誰もがそう思っただろう。
(グルグルグルグル)
来たぞ…。この体の奥から迫り上がってくる感覚。加えて気圧で直腸を押し広げるような圧迫感。
カフェインとニンニクによって粘膜を刺激された胃腸が疼き始めた。そして体内のガスが出口を求め今まさに暴発しようとしている。
だが、落ち着け。力任せにガスを放出しちゃあいけない。特に放屁において音が出るほどの大きな屁は、その勢いによってガスが分散され臭いが比較的薄いとされている。だからここは、ガスがその地点に滞留しやすい(諸説あり)、すかしっ屁をお見舞いしてやろう。ゲップも同様に口の中で溜めてから一気に放出する方が良いだろう。
体の重心を右側に寄せて軽く腰を浮かす。そして口は閉じながらも空気を溜めれる余裕は残す。
激臭には激臭を。全てが弾けて混ざり、この空間を「私」で満たす。
(グルグルグルグル)
静寂屁(セイント・ホーリー・ドブスメル)。
臭気内包震喉(ゲヘナ・ヘドロ)。
刹那、目の前が真っ白になる。全ての生物、思念、無機物、つまりこの世の森羅万象と一体になる感覚に陥る。
快感なんてチャチなもんじゃあない。間違いなく私はこの瞬間全てを経験し、そして死に、同時に生まれた。その実感があった。
王であり、名もなき小市民である。
神であり、邪神である。
または悪魔であり、時にお茶目な天使であった。
無論、室内にいる彼らもまた私と一つになったが、おそらく彼らにその感覚はない。ただただ爆臭に苦しむだけであった。
私だけが全てを失い、全てを得た。
私は気付けば涙を流していた。いや、涙だけではない。体の穴という穴から体液を噴出させていた。
猛烈な爆臭の中、恍惚の表情を浮かべる様はさも滑稽に映っただろう。だがこれで良い。これで良いのだ。
私は荷物とゴミを持ち、覚束ない足取りでドアの方へと向かう。室内を歩いて改めて実感するが、たった一人の人間が生み出したとは思えない臭いが立ち込めている。
ドアの取っ手に手を掛けようとしたところで、私はふと室内の方を振り返ってみた。
変わらず談笑を続ける者もいたが、私をチラリと見る者が数名いた。そしてその眼にはどれも憎悪の念が確かに込められていた。なんてことしてくれたんだ、と…。
3限の講義のため、これから少なくとも90分間はこの悪臭空間で過ごさなければならないからそれは無理もない。講義をサボることもできるだろうが、その理由が「部屋が臭いから」というのもなんとも惨めな話である。その想像が私の胸の奥をじんわりと熱くさせ、また滾らせた。
私はたまらずそんな彼らに向かって軽く一礼する。きもちくしてくれてありがとう。
嗚呼、梶井基次郎。私は今君を理解できるし、君もきっと私を理解してくれる。
これから入室してくる学生や教授が部屋に足を踏み入れた瞬間、強烈な臭気によって彼らの脳は大爆発を起こし、未だ滞留しているガスに誘爆することで大学ごと吹き飛ぶことだろう。
それなら午後の講義は全て休講だな、そんなおもしろい想像をしながら私は部屋を後にした。
おわりに
さて。全5回にわたって連載してきた『えいはぶのマグナム合法トリップ!!』だが、とうとう今回で最終回である。 だが、これまで紹介したもトリップはほんの一部だ。世の中には合法的にトリップできるものでまだまだ溢れている。
さぁ、次は君の番だ。 君自身の手で、足で、時には五感を研ぎ澄ませながら新たな合法トリップを見つけて欲しい。
全てのトリッパー達に幸あれ!
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